「実践ネットワーク分析」(安田雪)

実践ネットワーク分析―関係を解く理論と技法

実践ネットワーク分析―関係を解く理論と技法

安田雪さんの「数学に不慣れな方を想定した」ネットワーク分析の入門書。行列の計算が出てくるくらいで数学的に難しい議論は出てこないが、コレ一冊でネットワーク分析の理論の基礎は抑えられそう。

第1部 概念の具体化と操作定義

第一章 概念操作と中範囲理論

極度に一般的な(長期間にわたる、全世界の森羅万象を規定する社会の構造を探る)研究と極度に個別的な研究の間を埋めるものが必要。
中範囲理論構築の要請
→appliedな事例として

    • 国家間関係のネットワーク分析(スナイダー、キック79)
    • 求職者と就職情報提供者との関係分析(グラノヴェター74,98)
    • 経営組織における管理職の昇進速度とネットワークの分析(バート90)
  • 属性から構造へ

ネットワーク分析は構造社会学の系譜に立つ。
「属性や心理が原因」VS「行為者をとりまく社会構造が原因」
→属性との相関関係は統計をとればわかる。ではそれがいかなる因果関係によるものなのか?その構造を明らかにしてくれるのがネットワーク分析。
こうした発想からネットワーク分析をはじめることは極めて重要。
「ネットワークそれ自体を研究対象とし、説明変数とする分析」VS「ネットワーク(構造)から行為選択を説明する分析」では後者を志向する。

第二章 理論の構造

  • 理論構築の戦略

「問題」の発見が第一歩である。問題とは「ズレ」=「こうなっているはずなのになっていない」、「こうなってほしいのになかなかならない」 つまり、理解の上での課題と解決を志向した際の課題がそれに該当する。

第2部 ネットワーク特性の概念操作
第三章 関係

  • ネットワークの抽出

一般に主体間には複数の紐帯が存在する(複紐帯的ないし多重送信的と言う)。いずれかの紐帯に照準を合わせ、それにあわせてネットワーク境界を策定する。

  • ハイテク企業の管理職研究でアドバイスを求める関係、友人関係、報告関係の3つでネットワーク分析を行い比較した(クラックハート87)
  • ネットワークの大きさと次数
    • 次数(degree)
      • 有向グラフ:outdegreeとindegree
      • 無向グラフ:degree

次数がゼロだと孤立点、孤立点だけだと空グラフ

    • ネットワーク密度:行為者同士の関係がどれくらい密であるか。network density = <実際の紐帯数>/<理論上可能な紐帯数>
    • 次数の平均と分散
  • 二部グラフ
    • 所属(接続)行列:行為者×ある属性の値の種類(りんご、バナナ、みかん)の行列で、二部グラフによって図示できる。
    • 所属行列とその転置行列の積:=行為者×行為者or属性×属性の行列。【行為者の場合】その属性に対して行為者同士が程度共通しているか(AさんとBさんが同じ企画に何回行っているか)。【属性の場合】ある行為者に関して属性同士がどの程度共通しているか(企画Aと規格B両方に来ているのは何人か)。→属性の同一性は行為者間の関係(エッジ)を規定する指標となる。

第四章 派閥:クリーク

  • クリークの定義
    • 2つの志向性
      • 行為者の主観を重視し、行為者の感情や医師に基づいて定義する

→クリークとは「より大きな構造の内部にあって、まったくの好みもしくは共通の関心に基づいて、その成因がお互いに結びつくことを選好する集団」(ボワセベン74)怨念のネットワークも含まれる〜赤穂浪士のネットワーク〜

      • 関係の有無や程度に応じて定義する

→次に記載

  • サブグラフによるクリークの特定
    • サブグラフ:グラフの一部
    • 直接結合:隣接している
    • N-クリーク

第五章 中心:中心性
第六章 競争:構造同値
第3部 理論と道具箱
第七章 行為と構造に関する理論
第八章 分析の道具箱
・ネットワークの安定性

  • 「関係というものがそれほど脆弱であるのならば、なぜそれほどに脆い砂糖菓子のような関係を分析する必要があるのだろうか。その答えは、「役割」の概念にある。人々は役割との関係を維持するものであり、特定の個人である固体と関係を持つわけではない。・・・特定のある個人との紐帯は脆弱であろうとも、期待される他者の役割と自らを結ぶ紐帯として解釈するならば、それは非常に頑健な紐帯であり、固定的な関係構造なのである。」
  • 「多くの組織にとって、個々の構成員がいかなる人物であるのかということは、たいした問題ではない。組織が存続し続けられるのは、この役割関係のネットワークが頑健であり、固定しているためである。・・・構造とは役割間の関係であり、社会相互作用における行為者の関係は、人間や組織の固有性の関係ではなく、それらが担っている役割間の関係なのである。」